世界遺産の取り消しは、文化遺産だけの問題ではありません。
自然遺産でも起きています。
その事例が、
オマーンの「アラビアオリックス保護区」です。
砂漠に生きる希少動物

アラビアオリックス。乱獲から回復し、世界遺産登録の象徴となった。
アラビアオリックスは、
白い体と長い角を持つ美しいレイヨウです。
かつてはアラビア半島に広く生息していましたが、
乱獲により絶滅寸前まで追い込まれました。
オマーン政府は保護区を設け、
個体数の回復に成功します。
その努力が評価され、
1994年、世界自然遺産に登録されました。
保護区の縮小
しかしその後、
状況は変わります。
石油開発計画が進み、
保護区の面積は約90%縮小されました。
これは単なる境界変更ではありません。
世界遺産としての価値の中核部分が、
実質的に失われる決定でした。
2007年、取り消し
2007年。
ユネスコは、
この自然遺産の登録を取り消しました。
理由は明確です。
「顕著な普遍的価値の喪失」
保護の前提条件が崩れたのです。
経済と自然の選択
オマーンの決定は、
国家の経済戦略に基づくものでした。
石油は重要な資源です。
しかしその選択は、
希少種の生息環境を大きく縮小させました。
世界遺産制度は、
その結果を“評価”として示しました。
自然保護と経済のバランスは、他の地域でも課題となっています。
自然破壊の問題についてはこちらをご覧ください。
No.55 世界遺産はなぜ自然破壊で危機に陥るのか
私たちの未来と重なる
これは遠い砂漠の話でしょうか。
氷河が溶け、
森林が伐採され、
海面が上昇する。
経済成長と環境保全の間で、
私たちは常に選択を迫られています。
アラビアオリックス保護区の取消は、
「守る」と言いながら、
何を優先したのか
という問いを残しました。

オマーンの砂漠地帯に広がる保護区の風景。
取消は終わりではない
世界遺産の称号は失われました。
しかし自然そのものは消えていません。
問題は、
保護を継続できるかどうかです。
世界遺産は、
ラベルではありません。
継続的な責任です。

経済開発と自然保護の間で揺れた決断。
世界遺産制度は維持と見直しの両方を前提としている。
次回
次は、都市再開発によって取り消された
リヴァプール海商都市を見ていきます。
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