――登録されない名建築から制度を考える――
世界遺産は「価値がある」だけでは登録されません。
明確な基準と判断によって選ばれています。
こんにちは、小鹿です🦌
危機遺産を巡る旅を終えたあと、
小鹿がぽつりと言いました。
「世界遺産って、すごい建物が全部登録されてるわけじゃないの?」
その問いに答えるため、
今日は、オリンピックの感動と興奮冷めやらぬ、
イタリア・ミラノへ向かいます。
■ ミラノ大聖堂という傑作
イタリア北部の都市ミラノ。
街の中心にそびえるのが、ミラノ大聖堂(ドゥオーモ)です。
1386年に着工し、完成まで約500年。
白い大理石で覆われた外観、無数の尖塔、屋上テラスからの絶景。
ヨーロッパ最大級のゴシック建築のひとつです。
【写真1】ミラノ大聖堂(ドゥオーモ)

1386年着工。約500年をかけて完成した壮大なゴシック建築。
世界遺産は価値だけでなく登録基準によって選ばれる。
これほどの建築でありながら、
ドゥオーモ単体は世界遺産ではありません。
世界遺産の登録基準については、こちらで詳しく解説しています。
No.52 世界遺産はどうやって決まる?
■ しかし、ミラノにも世界遺産はある
実はミラノには、すでに世界遺産があります。
それが、サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会と修道院です。
【写真2】サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会

レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」が残る修道院。1980年に世界遺産登録。
ここには、レオナルド・ダ・ヴィンチの傑作
《最後の晩餐》が保存されています。
芸術史上の画期的作品であり、
その文化的価値が「顕著な普遍的価値」として認められました。
つまり、
ミラノは世界遺産都市ではないが、
「特定の価値」は登録されているのです。
■ なぜドゥオーモは登録されていないのか?
世界遺産に必要なのは、
- 顕著な普遍的価値(Outstanding Universal Value)
- 完全性
- 真正性
- 長期的な保護体制
そして何より、
世界的視点で“唯一無二”と評価されるかどうか
です。
イタリアにはすでに、
【写真3】フィレンツェ歴史地区

都市全体がルネサンス文化の発展を示す歴史的連続性を持つとして登録。
【写真4】ヴェネツィアとその潟

都市と自然景観が一体となった文化景観として登録。
など、多くの歴史都市が登録されています。
都市全体としての歴史的連続性や文化的総体が評価されているのです。
ミラノは重要な商業都市であり、
近代以降の発展も大きい都市です。
しかし、
中世から近代までの歴史的都市景観が連続して保存されている、
というタイプの都市ではありません。
そのため、都市全体としての登録には至っていないと考えられます。
世界遺産に登録されるかどうかは、厳格な基準によって判断されます。
その仕組みについては、こちらで詳しく解説しています。
No.52 世界遺産はどうやって決まる?
■ 世界遺産は「ランキング」ではない
小鹿が言いました。
「じゃあ、登録されてないってことは、価値が低いの?」
違います。
世界遺産は“価値の順位”ではありません。
登録されていない名建築は世界中にあります。
世界遺産制度は、
地球規模で守るべき遺産を選び、保護を促す制度
なのです。
■ 危機シリーズを経て、見えてきたこと
戦争、乱開発、気候変動、管理体制の不備。
危機遺産を見てきたからこそ、
私たちは問い直します。
「世界遺産とは何か?」
登録されることが目的なのか。
それとも、守るべき価値を考えるきっかけなのか。
ミラノは、その境界線を考えるための回です。
■ 小鹿のひとこと
ドゥオーモの屋上で、小鹿が空を見上げました。
「世界遺産じゃなくても、
人の心に残る場所はあるよね。」
制度は大切です。
しかし、文化の価値は制度だけでは測れない。
では、なぜドゥオーモは登録されていないのでしょうか。
それは、
「価値がない」からではありません。
世界遺産は、
価値の高さだけでなく、
「基準との適合」と「全体としての位置づけ」で判断されます。
つまり、
選ばれることにも理由があり、
選ばれないことにも理由があるのです。
ここに、世界遺産という制度の本質があります。
登録される遺産。
登録されない名建築。
その両方を見つめることで、
世界遺産という制度の輪郭が、少しだけはっきりします。
小鹿が言いました。
「じゃあ今度は、“都市ごと登録された場所”に行こうよ。」
制度の外と内。
その違いを、もう少し歩いてみます。
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