――危機遺産と登録取り消しの現実――
今朝、庭に来た小鹿が、少し不思議そうな顔をしていました。
「世界遺産って、ずっと残るんちゃうの?」
そんな声が聞こえた気がしました。
これまで東大寺から始まり、シルクロードを巡り、
祈りの都市や自然の絶景をたどってきました。
けれど、世界遺産は“永遠”が約束された存在ではありません。
■ 危機遺産とは何か?
ユネスコには「危機にさらされている世界遺産(List of World Heritage in Danger)」という制度があります。
これは、
- 戦争や紛争
- 自然災害
- 無秩序な都市開発
- 環境破壊
- 観光圧力
などによって、価値が損なわれる恐れがある遺産を指定するものです。
危機遺産リストに入ることは「罰」ではなく、
国際的な支援を呼びかけるための警告です。
現在も、シリアやアフガニスタンなど、紛争の影響を受けた遺産が多数登録されています。
■ 実際に取り消された世界遺産
世界遺産は登録されても、条件を満たさなくなれば取り消されることがあります。
① ドレスデン・エルベ渓谷(ドイツ)
登録年:2004年
取消年:2009年
理由は、景観を大きく変える橋の建設。
ユネスコは景観保全を求めましたが、都市開発が優先され、登録が取り消されました。

② リバプール海商都市(イギリス)
登録年:2004年
取消年:2021年
大規模再開発により、歴史的景観が失われると判断されました。
これらは「文化的価値」と「経済開発」の衝突を象徴する例です。

■ 危機遺産の代表例
パルミラ遺跡(シリア)
内戦により破壊。
歴史的建造物が爆破されました。
バーミヤンの大仏(アフガニスタン)
2001年、タリバンによって破壊。
現在も空洞のまま残ります。

■ なぜそれでも守ろうとするのか
世界遺産は単なる観光地ではありません。
それは、
- 人類の歴史の証拠
- 文化の多様性の象徴
- 自然の記録
です。
守れなかった例を知ることは、
「守る意味」を知ることでもあります。
■ 世界遺産は“今”の選択で決まる
開発を優先するのか。
保存を優先するのか。
その選択は、今を生きる私たちに委ねられています。
庭の鹿は、ただ草を食べているだけです。
でも、その風景が守られているのは、誰かの選択があったから。
世界遺産は、登録された瞬間に完成するのではありません。
守り続ける努力があってこそ、意味を持ちます。
この後、危機要因別に解説していきます

一覧を見ると、危機に瀕する理由は一つではありません。
戦争、都市開発、環境破壊、気候変動、管理体制の問題…。
危機遺産の中でも、最も多い要因は武力紛争と政治不安です。
具体的な事例については、
「世界遺産はなぜ戦争で失われるのか」で詳しく解説しています。
次回以降、危機要因ごとに代表的な世界遺産を取り上げ、
なぜ守れなかったのか、どうすれば守れたのかを考えていきます。
小鹿が最後に言いました。
「なくなるって、悲しいな。」
だからこそ、
残すという選択がある。


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