No.51 世界遺産は永遠ではない

世界遺産解説
――危機遺産と登録取り消しの現実――

今朝、庭に来た小鹿が、少し不思議そうな顔をしていました。

「世界遺産って、ずっと残るんちゃうの?」

そんな声が聞こえた気がしました。

これまで東大寺から始まり、シルクロードを巡り、
祈りの都市や自然の絶景をたどってきました。
けれど、世界遺産は“永遠”が約束された存在ではありません。


■ 危機遺産とは何か?

ユネスコには「危機にさらされている世界遺産(List of World Heritage in Danger)」という制度があります。

これは、

  • 戦争や紛争
  • 自然災害
  • 無秩序な都市開発
  • 環境破壊
  • 観光圧力

などによって、価値が損なわれる恐れがある遺産を指定するものです。

危機遺産リストに入ることは「罰」ではなく、
国際的な支援を呼びかけるための警告です。

現在も、シリアやアフガニスタンなど、紛争の影響を受けた遺産が多数登録されています。


■ 実際に取り消された世界遺産

世界遺産は登録されても、条件を満たさなくなれば取り消されることがあります。

① ドレスデン・エルベ渓谷(ドイツ)

登録年:2004年
取消年:2009年

理由は、景観を大きく変える橋の建設。
ユネスコは景観保全を求めましたが、都市開発が優先され、登録が取り消されました。


② リバプール海商都市(イギリス)

登録年:2004年
取消年:2021年

大規模再開発により、歴史的景観が失われると判断されました。


これらは「文化的価値」と「経済開発」の衝突を象徴する例です。


■ 危機遺産の代表例

パルミラ遺跡(シリア)

内戦により破壊。
歴史的建造物が爆破されました。

バーミヤンの大仏(アフガニスタン)

2001年、タリバンによって破壊。
現在も空洞のまま残ります。


■ なぜそれでも守ろうとするのか

世界遺産は単なる観光地ではありません。

それは、

  • 人類の歴史の証拠
  • 文化の多様性の象徴
  • 自然の記録

です。

守れなかった例を知ることは、
「守る意味」を知ることでもあります。


■ 世界遺産は“今”の選択で決まる

開発を優先するのか。
保存を優先するのか。

その選択は、今を生きる私たちに委ねられています。

庭の鹿は、ただ草を食べているだけです。
でも、その風景が守られているのは、誰かの選択があったから。

世界遺産は、登録された瞬間に完成するのではありません。
守り続ける努力があってこそ、意味を持ちます。


この後、危機要因別に解説していきます

一覧を見ると、危機に瀕する理由は一つではありません。
戦争、都市開発、環境破壊、気候変動、管理体制の問題…。

危機遺産の中でも、最も多い要因は武力紛争と政治不安です。
具体的な事例については、
世界遺産はなぜ戦争で失われるのかで詳しく解説しています。

次回以降、危機要因ごとに代表的な世界遺産を取り上げ、
なぜ守れなかったのか、どうすれば守れたのかを考えていきます。


小鹿が最後に言いました。

「なくなるって、悲しいな。」

だからこそ、
残すという選択がある。

コメント