――武力紛争・政治不安という最大の危機――
今朝、庭に来た小鹿が、少しだけ真顔で聞きました。
「なんで戦争で壊されるん?」
その問いは、重い。
世界遺産の危機要因の中で、最も多いのが
武力紛争・政治不安です。
自然災害ではありません。
開発でもありません。
人と人の争いです。
世界遺産が危機に瀕する理由については、
「世界遺産は永遠ではない」で詳しく解説しています。
■ 武力紛争がもたらす破壊
戦争は、都市や生活だけでなく、
歴史そのものを破壊します。
世界遺産は象徴的存在であるがゆえに、
政治的・宗教的対立の標的になることがあります。
砲撃、爆破、略奪、放火。
一瞬で失われる建造物もあります。
■ 代表例① パルミラ遺跡(シリア)
古代ローマと東方文化が交差した都市。
2015年、過激派組織により神殿や凱旋門が爆破されました。
登録基準(ⅰ)(ⅱ)(ⅳ)に該当する文化遺産。
破壊の目的は、単なる戦闘ではなく、
“象徴の消去”でした。
現在も復元作業が続いていますが、
完全に元通りにはなりません。

世界遺産は登録基準(ⅰ〜ⅹ)によって認定されます。
詳しくは「世界遺産はどうやって決まる?」をご覧ください。
■ 代表例② キエフの聖ソフィア大聖堂(ウクライナ)
11世紀建造のビザンツ建築の傑作。
2023年、武力衝突の影響を受け、
危機遺産に登録されました。
世界遺産は、戦争の「副次的被害」ではありません。
戦争は文化をも巻き込みます。

■ 代表例③ バーミヤンの大仏(アフガニスタン)
2001年、爆破。
巨大な石仏は崩れ落ちました。
現在も空洞が残っています。
これは「戦闘」ではなく、
思想的破壊でした。

■ なぜ守れないのか
武力紛争下では、
- 保全活動が停止
- 管理体制が崩壊
- 略奪や密売が横行
します。
文化財は無防備になります。
また、世界遺産は
「国家が保護する」制度です。
国家そのものが不安定になると、
保護機能も失われます。
■ 危機遺産制度の役割
危機遺産リストは、
破壊の事実を世界に知らせ、
国際的支援を集める仕組みです。
登録は“終わり”ではなく、
守り続ける責任の始まりです。
■ それでも、なぜ記録するのか
破壊されたとしても、
記録は残ります。
図面、写真、3Dデータ。
世界遺産は「建物」だけではありません。
人類の記憶です。
庭の小鹿は、少しだけ黙っていました。
「なくなったら、終わりなん?」
終わりではない。
けれど、失われたものは戻らない。
だからこそ、
戦争と文化の関係を知ることは重要です。
次回は、戦争ではなく「開発」が消した世界遺産を見ていきます。


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